17.淡々とした映画 『希望の灯り』

17.淡々とした映画 『希望の灯り』

こんにちは。

 

ドイツ映画『希望の灯り』を観ました。

(画像と引用は、配給元の彩プロのhttp://kibou-akari.ayapro.ne.jp/です)

 

変化のない舞台

 

舞台は、巨大スーパーマーケット内がほとんど。

広い室内に高い天井までうずたかくに積まれた商品。

多分、そこは在庫室ではないかと思います。

(売り場出入口を飾り付けるシーンも映るので、売り場かもしれません)

 

http://kaitairescue-119.net/

 

登場人物など

 

登場する時間が長い順に並べると、

・主人公クリスティアン(フランツ・ロゴフスキ、1986年生まれ)
・棚と在庫
・フォークリフト
・主人公の指導係りをする先輩社員ブルーノ(ペーター・クルト、1957年生まれ)
・主人公が恋する女性マリオン(ザンドラ・ヒュラー、1978年生まれ)
・スーパーで働く同僚たち(10人くらい)
・主人公の過去の悪友たち(5人くらい)

 

イントロダクションとストーリー

以下はホームページの引用です。
イントロダクション
旧東ドイツの巨大スーパーで働く人たち、
そのつましい世界のぬくもり

腕や首の後ろにタトゥーを入れた無口な青年クリスティアンは、巨大スーパーマーケットの在庫管理係として働き始める。旧東ドイツ、ライプツィヒ近郊。店の周囲には畑地が一面に広がり、遠くにアウトバーンを走る車が見える。仕事を教えてくれる中年男性ブルーノはクリスティアンを言葉少なに見守る。年上の魅力的な女性マリオンへの一途な思いは、恋の喜びと苦しみを教えてくれる。ここで働く者たちは、みな、素朴で、ちょっと風変わりで、心優しい。それぞれに心の痛みを抱えるからこそ、たがいに立ち入り過ぎない節度がある。それが、後半に起きる悲しい出来事の遠因になったのかもしれないが、彼らは喪失の悲しみを静かに受けとめ、つましく生きていくのだ。いま目の前にある小さな幸せに喜びを見出すことで日々の生活にそっと灯りをともす。そんな彼らの生きる姿勢が、深い共感と感動を呼びおこし、静かな波のざわめきのように深い余韻を残す。

 

ストーリー

内気で引きこもりがちなクリスティアン(27歳) (フランツ・ロゴフスキ)は、ある騒動の後に建設現場での仕事をクビになり、在庫管理担当としてスーパーマーケットで働き始め、レジでの雑踏やフォークリフトなど、自分にとって全く未知の世界に放り込まれる。そして彼はルディ(アンドレアス・レオポルト)、クラウス(職場で唯一ハンドパレットトラックの操縦を許可されている) (ミヒャエル・シュペヒト)、ユルゲン、飲料セクションのブルーノ(ペーター・クルト)と出会う。ブルーノは、クリスティアンに仕事のいろはやフォークリフトの操縦の仕方を教え、クリスティアンにとって父親のような存在になる。通路で、クリスティアンはスイーツセクションの同僚のマリオン(39歳) (ザンドラ・ヒュラー)と出会い、彼女の謎めいた魅力に一瞬で惹かれる。コーヒーマシーンのある休憩所が彼らのおきまりの場所となり、二人は親密になっていくが..

 

 

社会的背景

 

この映画の社会的背景を記しておきます。

観方が深まると思います。

 

以下は「ドイツ発ライフスタイル・ガイドbyドイツ大使館」のコピーです。
サンドラ・ヘフェリン氏の文章です。

 

先日、渋谷の文化村でドイツ映画「希望の灯り」を観ました。旧東ドイツ出身の作家クレーメンス・マイヤーの「夜と灯りと」が原作です。監督のトーマス・ステューバーも旧東ドイツで生まれ育ちました。

この映画、ジワジワきます。

人々の日常を小細工することなく描いています。そこには「作りこんだ何か」も、派手なクライマックスもありません。

時代は壁がなくなった後の90年代。東側にある大型スーパーマーケットが舞台です。

大型スーパーマーケットがDDR時代の「トラック運送の人民公社」を買収して営業しているという設定で、トラック公社時代の従業員が一部そのままこのスーパーマーケットで働き続けています。

スーパーマーケットの従業員は全員口は悪いけれど、あたたかい人たち。その職場に20代の男性クリスティアンが新人として入社します。クリスティアンも旧東ドイツ出身です。

映画の中では、内気なクリスティアンとほかの従業員との人間模様が描かれています。

スーパーマーケットでフォークリフトの運転に苦戦するクリスティアンのことを親身になって世話をするブルーノ(ちなみにこのブルーノも口はかなり悪いです)。クリスティアンが恋心をよせるマリオン。

この映画にはハリウッド映画やほかのドイツ映画に多く見られる、激しいキスシーンなどは一切登場しません。私は見ていて、「なんだか昔の日本みたいな描き方だな」と感じました。あくまでも、「片思い」をするクリスティアンの恋心が描かれており、スーパーの棚越しにマリオンの姿を追ったり、クリスマス会でマリオンを気遣うなど、見ていてほほえましいです。そんな二人の寄り添いのクライマックスはやはり、スーパーマーケットの冷凍室で二人、鼻と鼻をくっつけ「エスキモー風」の挨拶をするシーンでしょうか。

この映画は125分と長めなのですが、映画の半ばぐらいまでは、スーパーの単調な日常が延々と描かれており、正直、途中で「もしや、最後まで、このままスーパーの日常の描写だけで終わる!?」と心配しましたが(笑)やはり途中で、登場人物のそれぞれの「背景」が明らかになり、なるほど・・・と納得しました。

クリスティアン、マリオン、ブルーノ。ドイツ統一後の「時代に取り残された」彼らの背景にスポットがあたります。

DDR時代には前述の「トラック運送の人民公社」でトラックの運転手をしていたブルーノ。彼はその時代を懐かしみます。今の「スーパーマーケットの店員」という仕事は統一に伴う「時代の流れ」であり、ブルーノ本人が望んでいたものではありませんでした。

内気なクリスティアンも暗い過去を背負っていますし、マリオンにいたってはネタバレで申し訳ないですが、夫のDVの被害者です。

高速道路沿いにあるこの巨大スーパーマーケットには窓がなく太陽の光りも入ってきません。場所柄、近くには娯楽もなく、映画でスーパーの周辺の景色が映し出されるたびに、空しさが伝わってきました。

そう、この映画は紛れもなく統一後の「労働者」の人々を描いています。と同時に「貧困」もひとつのテーマです。

スーパーで廃棄処分となった食べ物をゴミ箱から拾いむさぼるように食べるスーパーの人々。主人公クリスティアンが意中のマリオンの誕生日にローソクを立てた「ケーキ」をプレゼントするのですが、そのケーキはYes-Tortyで、これもまた廃棄処分の商品の中からもらってきたものです。

この映画では、登場人物はあまり言葉を発しません。でも言葉少なだからこそ、見えてくるものが大きいと思います。

国は統一したけれど、個人として統一の恩恵をまったく受けていない「現場の人々」の日常がそこにはありました。

ところで、映画のドイツ語のオリジナルタイトルはIn den Gängenですが、これは日本語に直訳したとすると「廊下で」なのですね。ドイツ語だとピッタリのタイトルなのですが、日本語だとこれでは違和感があるので、邦題を「希望の灯り」としたのは正解だな、上手いな、と思いました。映画の上映中も「俳優さんのドイツ語のセリフ」と「字幕の日本語」を比べながら「なるほど、こういうふうに訳しているんだ」と発見があり、面白かったです。たとえは先輩が新人として職場に入ってきたクリスティアンに”Wir duzen uns alle.”(直訳したとすると、「ここの職場ではみんな(Sieではなく)duを使ってるんだよ。」)と言っているのですが、日本語の字幕では「気楽な職場だよ」と訳されていました。なるほど、上手い訳し方です。

さて、映画の最後のほうのあるシーンが印象に残っています。詳しく書くとネタバレになってしまいますので、少しだけ書くと・・・「波の音」にはホロッときました。最後のほう、注目してみてください。

以上、サンドラ・ヘフェリン氏

 

以下は、ヘフェリン氏の文章中の「日本語とドイツ語の翻訳」についての補足です。

 

DuとSieの使い分け

 

 

静かな映画でした

 

多くの映画は、出来事や事件が起こりますね。

伏線がちりばめられた映画も多いです。

『希望の灯』でも大きな出来事が起こります。

しかし、「それも一つの日常だ」と思われるかのように淡々と進みます。

 

どんなできごとも日常の一つ。

今日一日が無事に過ぎることが大切。

そんなことを思いました。

 

素晴らしい、ザンドラ・ヒュラー

 

主人公が恋するマリオンをザンドラ・ヒュラーが演じています。

 

Sandra Hüller

1978年4月30日ドイツのテューリンゲン生まれ。エルスンスト・ブッシュ演劇芸術アカデミーで演劇を専攻し、その卓越した演技により03年、演劇雑誌「ホイテ」の栄えある最優秀若手女優賞を受賞。映画デビューは『レクイエム~ミカエラの肖像』(05/未)。精神の不安定な女性ミカエラを演じ、第56回ベルリン国際映画祭において銀熊賞(女優賞)、ドイツアカデミー賞主演女優賞他多数の女優賞を受賞。『Above Us Only Sky』(11/未)でも主役を務め、翌年のドイツ映画批評家協会賞にて主演女優賞を獲得。ドイツを代表する数少ない女優のひとり。『ありがとう、トニ・エルドマン』(16)では、ドイツアカデミー賞、ヨーロッパ映画賞、トロント映画批評家協会賞などで主演女優賞を受賞。

 

前に書きましたブログです。

ザンドラ・ヒュラーがコンサルタント役で登場しています。

8.『ありがとう、トニ・エルドマン』の入れ歯

 

 

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17.淡々とした映画 『希望の灯り』

 

 

 

 

 

 

 

 

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